売らせず安い 閑な時は忍の一字
小豆の五千円台があれば売ってやろう。輸大の七百円(大阪)以上を売ろうと待つ人多かりし。
「山雨に暮れゆく庭の楓かな 流木」
香港の商品取引所から招待状をいただいた。同取引所が十一月一日、東京穀取方式で輸入大豆の相場を建て売買を開始する。そのレセプションの招待状で、これは各穀取理事長、全商連、全協連、取引所、協会役員の主だった人に送られたが一体なん人出席するだろう。
香港商品取引所での輸入大豆の商いは、初めは日系ブローカーの御祝儀もあって出来ようが、東京穀取の相場がいまのように、投機筋の魅力にほど遠い状態では、香港市場独自の相場変動に期待が持てない限り、市場は機能しないかもしれない。
要するに東京穀取の相場がどう動くかを、香港で思惑するようなものだから、東穀相場が動かなければ香港も駄目になる。
一時、日本の取引員が心配した、香港商品取引所のブローカー(仲買人)が日本に支店を出し日本で無制限に投機を勧誘すればこれは大変な事になる。だが現行商品取引所法では取引員が心配したようなことにはならないそうである。
それにしても、シカゴ大豆や小麦の相場を証拠金さえ積めば東京で仕掛けることが出来るそうだ。日本の取引所の上場商品が投機の妙味に欠けるようなら、商品相場が好きな人なら、注文を受けてくれるところが確りして信用のある店であれば日本円やドルの売買、ゴールド、シュガーなど外国の取引所相場に投機の場を求めてもおかしくない。
取引所の国際化だとか、産業、流通業界とのつながりとか、ともかく業界の新聞雑誌の新年号の理事長挨拶文は、お題目ばかり、来る年、来る年変わりばえがしなかったけれど、いまや自然発生的なゴールド市場が日本全国に定着し、取引所行政のお目付け役の通産省をしても、それがブラックであろうとなかろうと手がつけられない。
そういう激動期の商取業界に、香港商品取引所が、日本の商品市場と、なんらかの関連を持つようになったことは、新年の理事長挨拶文が書きやすくなったのか書きにくくなったのか知らないが、ほとんどの人は読まないものだけにどうでもよいが困ってしまうのは、下書きをつくる事務局であろうと同情する。
などと言っているのも相場の強弱書きようがないからで、困った市場、困った相場をほっておいて香港にでも行ってみようか。
●編集部註
火盗改役長谷川平蔵は、在任時に銭相場の儲けで人足寄場の資金を捻出。これ以降、老中松平定信から疎まれるようになる。
事程左様に為政者と相場との相性は今も昔も悪い。
市場を下に見ているというか、舐めている。最初は好調でも、後々倍以上のツケを払う羽目になる。