昭和の風林史(昭和四七年一月八日掲載分)

玉碎寸前なり 三千円も危うし

買い方は玉砕寸前である。一万三千円割れの場面が、ここに来て考えられる。中旬以降大崩落だ。

「冴ゆる夜のこころの底にふるるもの 万太郎」

塩町の高津さん遊びにきて、ストップ高の精糖相場を売ってみませんか?という。高津商事の高津さんは砂糖に関してはプロである。その人のいうことを聞いておけば間違いない。もう二、三発のS高を予定して、S高、S高を売りあがろうと思って売ったところ、次の日はS高ではなくS安になってしまった。お正月から、これは縁起がよい。高津さんは福の神である。

砂糖が上がると小豆は下がる。これはジンクスである。砂糖がS安をしたから小豆が小反発した。砂糖が安いと小豆が高くなるのである。これもジンクスである。

さて、これから先の砂糖の相場がどうなるかは筆者には判らない。しかし小豆の相場は〝これからが相場〟という格好で、もちろん大暴落だ。

伝えるところでは台湾小豆の輸出余力は九千㌧だそうだ。

東京では三晶が台湾小豆が渡せる四月限よりむこうの限月を、さかんに売っている。一月下旬の北京商談でも小豆の契約は進むであろう。

いまのうちに大手買い方は逃げておきたいところで、大阪では伊藤さんの丸五商事が煽っては逃げる構えであった。

目下のところ、一万四千円の攻防という相場つきだが、明らかに買い方は苦戦である。それは見ていて実に、いたいたしい。

丸五の手口など、悲壮さを感じさせる。玉砕寸前という感じだ。「将兵飲まざること三日、木の根をかじり蝸牛を食べて抵抗中」「明後七日米軍を索めて攻勢に前進し一人克く十人を斃し、もって全員玉砕すべし」―サイパン島守備隊最後の無電である。

「ア」号作戦失敗。サイパン島玉砕。米軍グァム島に上陸。テニアン島守備隊全員玉砕。天皇戦局の重大化を憂慮、伏見宮、梨本宮、永野、杉山の各元帥を召集。マリアナ島喪失。陸海軍対立。米軍ペリリュー島へ。モロタイにも上陸。聯合艦隊レイテ湾で大損害。レイテ作戦失敗。米軍リンガエン湾へ上陸。米軍マニラに突進。

そして硫黄島→沖縄→原爆となる。

敗け戦さは、それがそのまま相場の闘いにも当てはまるのである。

●編集部注

明治は遠くなりにけりと詠んだ句が、昭和は遠くなりにけりと本歌取り。

ストップ安が、さあきっとぶれいかあに変わったのは何時の日だったか。

平成も遠くなりにけりと詠まれるのも、そう遠くない時代になった。

【昭和四七年一月七日小豆六月限大阪五〇円高/東京一〇円高】