昭和の風林史(昭和四七年七月二十八日掲載分)

意地も人情も 相場にゃ勝てぬ

敗け犬を、どつきまわしている売り方。これが相場というもの。買い方に声なし。黙して語らず。

「業苦呼起す未明の風鈴は 波郷」

納会を見て、市場は暗澹たる気持ちにおちいった。

受けたのが売り方である。腰のある受け手がいなかった。底抜けの格好だ。

27日は、かなり受けものが見られた。そして東京は九、十月限がついに八千円台に陥没である。

惨憺たるものだ。

売り方は勢いに乗った。

利食いする買い戻ししか買い物はない。

一万円割れからの、値ごろ観による買い玉は全滅した。刀折れ、そして矢尽き、無気力になった買い方を、どつきまわす。

北海道は低温気味であるが、目下のところ取り組み関係が先行する市場になっているから、産地の低温に耳をかさない。敗け戦さとはそういうものである。

水に落ちた犬は石を叩きつけろ―という(毛語録)。敗け犬・買い方を八千円台に叩き込め、そういう相場になっている。厳しい。

買い方は、投げて投げて投げる。無残かな。声もない。戦い利あらずは、逃げて逃げて、逃げる。勝敗は時の運。

気やすめは、もういいのである。渋り腹は、どか糞の前触れ。ジリジリチクチクしていた(小石崩れ)線型が、納会(26日)からドカドカときた。止まれば底と見たのは甘かった。いや、悪いけれど、止まってくれるかもしれないと、はかない期待をかけたのである。どなたさまも考えることは同じである。

これで、取り組みが、どの程度改善されるか。それと、値段がどこで落ち着くか。産地の天候が、この先どう推移するか。

強気している筋は強弱なしである。昔〝よういわんわ〟という言葉がはやった。あれである。言う事なし。つまり曲がり屋である。黙して語らずという。

歌の文句にある。

夜が冷い、心が寒い、渡り鳥かよ俺等の旅は、風のまにまに吹きさらし。

亭主もつなら、堅気をおもち、とかくやくざは、苦労の種よ、恋も人情も旅の空―。

月末から新ポ、舞台は、どのように変わってくるだろうか。怨みますまいこの世の事は、仕掛け花火に似た命という。もえて散る間に舞台が変わる、まして相場は、なおさらに。意地も人情も浮世にゃ勝てぬ、みんなはかない水のあわ、泣いちゃならぬといいつつ泣いて、月にくずれる影法師。

●編集部註
 冒頭で〝どつきまわし〟という表現を見てしまうと、後半の哀歌と正司敏江・玲児のどつき漫才が重なってしまう不思議。

【昭和四七年七月二七日小豆十二月限大阪九五五〇円・一一〇円安/東京九五七〇円・一四〇円安】