昭和の風林史(昭和四七年三月六日掲載分)

小豆はS高へ 三百円だ人絹は

人絹の戦線も燃えている。そして小豆戦線も風雲急を告げようとしている。売り方を撲殺せよ。

「田楽もかたき豆腐にかたき味噌 虚子」

人絹糸相場が燃えている。そしてクールな男・中道氏が義を見てせざるは勇なきなり―と豊・多々良軍の猛攻撃で壊滅状態だった仕手筋に自ら義勇軍を送り込んだ。

豊の多々良軍司令官は岡地のやり方は、きたなすぎる―と吐いて捨てるようにいった。

しかし、冷めたい計算機のような男・岡地中道氏にも自社の顧客を守るという情熱の血をたぎらせるものが、この人絹糸相場にはあったのだ。

岡地と豊。それは商品業界における宿命のライバルである。人絹糸相場は中盤から終盤の飛車切り角捨て王将自ら中央に進出しての激戦となった。

本紙三面連載の〔相場はもえているか〕の執筆者藤野洵記者は〝すでに人絹糸相場は噴塵巻きあげ三百円必至〟と観測する。

さて、小豆戦線も風雲急を告げようとしている。週末は阿波座山三から木谷に七、八両限月各百枚を付け換えてこの目まぐるしい玉の動きは、再び建て玉を軽くしたS・S親衛隊長の出動を思わせるものがあった。

小豆相場も燃えようとしている。

筆者は、金曜と週末の小豆の引け味から、今週は、ぶっ飛ばす相場を連想した。

それはロンメル指揮する機甲アフリカ軍団の猛攻である。巷(ちまた)の声は五千円限界と見るも、すでにその線型は五千五百円ライン突入を示し、状況如何によっては相呼応して鴨緑江越えの六千円肉薄も充分考えられるのである。

小豆相場は爆発の前夜である。

現物の動きは日を追うに従って、いよいよ活発化してきた。春の需要最盛期。真紅の旗にむすばれた黄色いリボンは、ちぎれそうになびいて買いのままを示している。

元帥は元帥杖を左脇下にはさみ全軍前進の号令をいままさに出さんとする表情である。

相場は勢いなり。朝の気は鋭に、昼の気は惰に、暮の気は帰なり。故に善く兵を用うる者はその鋭気を避け、その惰帰を撃つべし。これ気を治む。

相場は人の気なり。

三軍は気を奪うべし。

将軍は心を奪うべし。

小豆は弱気を撲殺すべし。

●編集部註

 大前提として、相場記事は売り方と買い方の双方に気を配って書くべし。筆者
は昔、そう教わった。

 それがウリであり、味であるといってしまえばそれまでの話だが、いくらなんで
も〝撲殺せよ〟とは穏やかでない。

 自分が売り方なら、ニャロメと逆に燃えるだろう。

【昭和四七年三月四日小豆八月限大阪八〇円安/東京一三〇円安】