昭和四七年九月二九日掲載分
当面手亡時代 仕手動向に興味
手亡は儲けにくい。だが現在、手亡しか動かない。やはり魚のいるところに釣糸を垂れるほかない。
訪中している田中首相が毛主席と会見した時、楚辞集註六巻を贈られたそうである。
楚辞は古来中国で詩経についで古い詩集で、紀元前およそ三百年ごろ楚の国(揚子江中流地帯)の愛国詩人・屈原らによって作られた雄大な構想と浪漫的な詩想をもつ韻文で、かなり難解なものである。
毛主席が楚辞を選んで田中首相に贈った気持ち、真意はどこにあったのか。
楚辞で一番有名な離騒篇の終章に「乱に曰く、巳んぬるかな、国に人無く、我を知る莫し。またなんぞ故都を懐(おも)はん。既にともに美政をなすに足る莫し。吾まさに彭咸の居る所に従はんとす」とある。
いきつくところまでいきついた老革命家の淡々とした心境と共鳴する詩が多いためかもしれない。
英雄の心境は複雑だ。
さて、納会後も人気は手亡に片寄っている。
昨日の出来高も東京では小豆九百三十一枚、手亡が二千五百二十五枚。大阪でも小豆は七百六十一枚、手亡が千五百七十一枚と、断然手亡の方が商いが多い。
納会で売り方が極力現物を集めて渡したのに対し仕手筋の石原が千枚に近い現受けをして高納会にもっていった。この実力はちょっと侮れない。
しかも来月からたつ三月限はピービーンズの格差が三千円で一段と広がるので当然高値で発会ということになるだろう。
こうした背景から見ると小豆売り、手亡売りを続けてきた弱気筋もちょっと苦しくなりそうだ。
これで取り組みが、もう一段と太ると出来高ももっとふえ、値の動きも荒くなり投機妙味も加わってくる。
七千円台が地相場、八千円出没相場も期待できる。
こういう相場になると不思議なもので、先日来の十勝地方の雨で予想外に等外物がふえそうだとか、ピービーンズの主産地ミシガン地方の出来も期待はずれだとか、強気を支持する材料が出てきている。
こうした材料がいずれ尾鰭がつき易いものだ。針小棒大な反響もありえよう。
反対に小豆は人気いよいよ離散。小豆でなければというマニア以外寄りつかない。数年ぶりの安値で年内どれほど消費がふえるか見極めてからでないと手がでない。
●編集部注
風林火山が鬼籍に入って一年が過ぎた。
この当時は鍋の底で張り付いたような小豆よりも、白インゲンの値動きの方がお好みのようだ。
当時の話題の中心は、やはり日中国交正常化に関するものが多い。その後の中国産の台頭で、小豆も大手亡も、国産品は市場もろとも崩れていく。
毛沢東から漢籍を送られた田中角栄は周恩来からも『言必信行必果』と書かれた色紙を贈られた。 これは論語の一説。「その言葉は必ず真実であり、やるべきことは必ずやりとげる。それは士として持つべき資質だ」となる。
ただこれは「そればかりの人間であれば、ただの融通のきかぬ小物なのだが」とその後続く文章だと知る人は少なかった。
この色紙の裏の意味を知っていた思想家の安岡正篤は、周恩来のしたたかさを感じたという。
【昭和四七年九月二八日小豆二月限大阪七九五〇円・変わらず/東京七九七〇円・三〇円高】