昭和の風林史(昭和四七年九月六日掲載分)

投機家帰らず 穀取市場静かなり

投機家は毛糸相場に走る。生糸もまた人気を集める。穀物は遠いところでの出来事のようだ。

「あさがほの水いろばかりさきにけり 章太郎」

生糸、毛糸、綿糸、乾繭と繊維相場が花盛りだ。金融の大幅な緩和が背景にある。お札(さつ)の値打ちが、どんどん下がる。金がよい。土地がよい。ダイヤモンドだ。いや油絵も人気の対象だ。株式相場が騰勢止まぬのも現金を持っていたら値打ちが下がるから、株券にしておこうという背景からきている。

繊維相場の高騰も、株高と同じ考え方のお札(さつ)を品物に換えておこうとの考え方が、その底流にある。

小豆はどうだろうか。これとて北海道産の本年出来た新穀なら品質がよいだけに〝待ち〟にしても悪くはない。八千円を割ったあたりの七千五、七百円なら格好な投資物件として見直されることかもしれない。

商品市場の人気は当面、毛糸である。すでに千六百円目標が言われる。相場の勢いからいえば、この毛糸相場はこれからである。

生糸相場も押し目完了後は九千円目標の、やはり超大型相場になろう。

九月は取引員各社の決算月の関係もあって、決算対策用に、どの商品といとわず現受けされたりする。

十月は新営業年度。専業大手筋は、九月中抑えていた営業姿勢を十月に入るや俄然活発に展開させる。毛糸に乾繭に、そして生糸に砂糖に。

取り残された小豆と手亡は、大根時の大根で、年間最安値に陥没して商いも低調になるだろうが、やはり金融がこれだけ緩和している時だ。大安値には現物投資の動きが出かねない。

思えば戦後穀取が再開されて満20周年。その昔は当業者主体の市場で商いも細々としたものであった。あれから、いろいろな事があった。そして穀取は陽の当たる場所に位置してきた。

いま大量の輸入小豆と本年度の大豊作と過去に犯してきた行為により刻まれた不信感等で穀取業界は反省期に入っている。昨年の二万一千円相場の反動もある。

それもまた相場である。いや、それが相場であろう。投機家は、毛糸相場に走るもよし、生糸を買うもよし。しばらく穀物相場は当業色の濃い業者によって八千円を割ったり、六千五、七百円になったり、降霜を期待したりで、遠いところでの出来事のような、あまり関心のないものとなる。

●編集部注
この時、東穀物そのものがなくなるとは、思いもよらなかったろう。

【昭和四七年九月五日小豆二月限大阪八〇四〇円・一七〇円安/東京八〇一〇円・一七〇円安】