昭和の風林史(昭和四七年二月二九日掲載分)

陽動は虚なり 実勢は戻り売り

八月限登場は売りになる。三月上旬にS安ありと見る。虚勢は怖くない。実勢は戻り売り。

「芽ぶかんとするひしめきの枝の空 素逝」

大蛇がウロコを立てて這いまわっている感じがする小豆市場である。

孫子兵法は<故によく兵を用うる者は、たとえば率然の如し。率然とは常山の蛇なり。その首を撃てば尾至り、その尾を撃てば首尾共に至る>と。

穀物市場の大蛇はどこが首で、どこに尾があるのか定(さだ)かでないが、這いまわったその跡にはM・MとS・Sの紋章がスノータイヤの跡のように鮮やかに残されている。そして見るものが見れば同じS・Sのウロコの跡も元帥印と親衛隊印とがあって、阿波座アパッチが、かがみ腰で恐る恐るその足跡を追跡している。

市場は、逆らわない。無駄な抵抗をしないのである。買い方が買っているあいだは、あえて売らない。だから知らない人が見ているとまるで〝無人の街道を行くが如き〟観あるも、買い方は、買って効果のある限月を狙い撃ちしているだけで全般をリードするだけの戦略は持ち合わせていない。

買い方が買って上げる相場は、手を抜くと値が消える。そういう上げは怖くない。

ここのところは逆張りである。月末の戻りは売り場になろう。

基調からきている上げではない。それはまさに空虚な工作である。

新ポはどうか。八月限登場は、売りである。新穀限月にだんだん接近していく。

誰もが天災期限月は買いだ―と見ている。

その裏に相場がある。

いずれ先に行けば強気に転換する値も出よう。しかし今は、強引な吊り上げ煽り型二本陽線。三本目は斜めにぶった斬るべしである。

筆者は、ふと思った。来月上旬には、存外S安があるのではないか?と。

戻りに限界あり。

期近二本は敬遠せよ。

買いに、ちょうちんつければ後悔する。

基調は一万三千円割れを厳然と示している。

いまもってS安含みの相場である。蛇(じゃ)の道は蛇(へび)という。アパッチの動向に注意せよ。手の内の秘策は案外筒抜けなのかもしれない。

ともあれ、やるだろう強引に。だがそれは虚勢で、実勢ではない。

●編集部註
「講釈師、見てきた様なウソをつき」という川柳があるが、相場師は、少し前の市況を見てきた様に相場を語るときがある。

僭越ながら経験則上、こういう時は存外、自らが組み上げた相場展望のロジックを、自らに再度、解説し直している事が少なくない。いわば今回の後半部分は、風林火山版の『自省録』といえる。

【昭和四七年二月二八日小豆七月限大阪二九〇円高/東京三三〇円高】