昭和の風林史(昭和四七年二月十六日掲載分)

はめ手に用心 定石は暴落型だ

定石(跡)なら暴落型だ。しかし、はめ手があるので油断は出来ない。旧正月明けを待つところ。

「麦踏の出てゐる島の畑かな 素十」

『風林は商品取引所法第八章第八十八条を持ち出すなど卑怯(ひきょう)だ』―と叱られた。京橋脇田の阿竹氏、豊栄の小田社長、筆者の近しい友人が皆そういう。強弱の世界に法律をふりかざすのは邪道だというのである。

筆者は、言われてみて、本当だったな―と思った。

山大の元帥も、M氏も北海道明治の鈴木氏も八十八条を持ち出すなど、もってのほかだと大層な立腹の様子。霜村昭平氏も、あの記事には当社(山梨)内部にも批判が出たと、おっしゃる。

八十八条については明日(木曜)付け〔難儀道〕でもとりあげてしまって、いまさら原稿の変更は出来ないから出してしまうが、〝強弱〟にひっかけたのは、卑怯な、やりかたであったかもしれない。

筆者は今年になって元帥のところにも霜村氏のところにも、一度も行っていない。新年の挨拶にあがろうと思って、入口まで行ったが、ちょうど相場暴落で、山大も山梨もさんざん打たれている最中だったので、なんとなく顔を見るのが痛々しく思えて遠慮していた。

そしたら、今度は当方のほうが大曲りに曲がって、白旗をかかげる有様となり、ポーカーテーブルをひっくり返すような買い方の顔なんか見たくないと思って遠ざかっていた。

豊栄の小田氏は、公平な立場でものを見る人である。『まあ怒るなよブランデーでも飲みながら聞けよ。あれば、どう見てもまずかった』―と、この人、苦労人である。脇田の阿竹氏も二十年近い友人である。彼も一杯やりながら強弱はなれて、『相場強弱がどんなに曲がろうと風林は風林だ。しかし法律を持ち出しては、もう風林の価値がない。どう思う?』といわれては、返す言葉もない。

元帥も顔を出せというし、霜村氏も逢いたいという。元帥は、すぐ、ぶん殴ってやると言うから、おっかないが、あれでなかなか人情味がある。

さて、相場のほうは下が深くも見えるし、売り込めば、また、ひっかけられそうだ。
ケイ線は文句なしの売りであるが、おうおう定跡破りの手が出るので、やりにくい。

●編集部注
 引けや玉など、相場用語は、イキで艶あり野暮な行為はご法度の花柳界に由来するものが多い。

 故に相場界でも、取引で勝とうが負けようが、イキで格好の良い振る舞いが本来は求められる。

 〝どんなに曲がろうとも風林は風林だ〟とは実に人たらしの殺し文句だ。

【昭和四七年二月十五日小豆七月限大阪四六〇円安/東京四八〇円安】