昭和の風林史(昭和四七年二月十日掲載分)

ああ天井せり 相場奈落の底へ

相場は天井した。明らかに戻り売りの時代に入った。虎穴に入らずんば虎児を得ず。決然売りだ。

「暮れなづみ花のみそれと猫柳 虚子」

九日の朝日新聞朝刊に日綿実業は米国アイダ州ナンパ地方での小豆の委託栽培が成功して、百㌧ほど輸入が実現する―という32行・二段見出しの記事が注目された。

相場は、おりから微妙な段階にあって、この記事が響いたように安寄りした。百㌧の輸入という、それ自体は、佐藤総理の四次防予算ではないが、「たいしたものでない」けれど、日綿が四年ほど前から小豆の委託栽培を行なっていたこと、それが成功したこと―などが、人気で左右される相場に影響をあたえたようで、ほかに三井物産のコロンビアにおける小豆の委託栽培はとりあえず千㌧入れる話もあり、業界で噂されていた商社の小豆栽培がようやく世人の注目を浴びる段階にきたことは、今後の小豆相場を考えるうえにおいて無視出来ない現象だ。

相場というものは、行き着くところまで行くと小指で衝くほどの些細なことで転換してしまうものである。また満つれば欠くるは世のならい。亢竜の悔(天に昇りつめた竜は、もう上にも昇れないから降りることを心配しなければならない)ということもある。

すでに小豆相場は行き過ぎと見られるぐらい反騰して、売り方は踏み急ぎ、買い方は鳥なき里の蝙蝠の感を強うした。

小豆相場は、線型で見る限り天井である。

ただ買い方が、その団結力と資力によって下げるべき相場を強引に吊り上げたり煽りたてたりする可能性は充分に残すけれど、相場そのものは、明らかに戻り天井を打ったと見る。

後光のさすほど輝かしき存在の当たり屋筋・大阪阿波座は数日来、買い戦線より急速な後退を見せている。

一気に四千円弱を棒立ちした(させた)相場だけに、ここで半値押しという場面に向かっても、変なことはないだろう。

ぼつぼつ輸入の材料も出てくる時期だ。一万八千円あるいは二万円などという上値目標値の聞かれる昨今だけに、この相場はくるべきところまで来ている。そして崩れだせば、棒で上げてきただけに早い。

人、天に勝ち、天、定まりて人に勝つ―。この言葉を忘れてはなるまい。

勝負する人は、好機逸すべからず。虎穴に入らずんば虎児を得ず。もとより相場投機。買い方の逆襲を恐れることなく決然売りに出るところだ。

●編集部注
 風林火山が天井と言ってるから騰がるだろう―。

 当時この文章を読んで、そう思った外務員は結構いたのではなかろうか。

 相場は意地悪だ。この手の御仁が多ければ多い程、文章の通りになる。

【昭和四七年二月九日小豆七月限大阪五五〇円安/東京四九〇円安】