昭和の風林史(昭和四七年八月十五日掲載分)

がっくりして コツンと底入れ

小豆も、このあたりから買えば、なんの苦労もあるまいに。小の文字の送り火でもするのがよい。

「あえかにもあはれ大文字の一度きり 妙子」

小豆相場は新穀限月で八千四、五百円あたり。一様に〝止まるだろう〟と見る値段が絞られてきたようだ。

末端の値動きも秋の需要最盛期を控えて活発になる。

作柄のほうは、平年作を上回る―という線でかたまりそうだ。

作が決まれば決まったで妥当と見られる相場価格で落ち着く。
 
それは、豊作織り込み済みという言葉で表現されよう。そして豊作に売りなしと人々は言う。

内部要因のほうは整理されるべき玉は、すでに整理を終わった。

いうなら、枯れきった心境の相場である。

日柄の、これだけにわたる経過は無視できない。

論語に「鳥の将に死なんとする、その鳴くや哀し、人の将に死なんとする、その言やよし」とある。相場のまさに底入れせんとするや、その姿静なりといえるかもしれない。

思うのである。相場もこういうところから買うのなら、なんの苦労もない。

いまだかつて、下げっぱなしという相場はない。この小豆相場も、いずれは底入れして反騰する。

このあたりから秋名月に買いの種蒔け―で、ぼつぼつ買っていけば、気も疲れず、むしろ楽しみが持てる―というわけであるが孝行をしたい時に親はなく、大底が見えた時分に資金なし―で、世の中は、実にうまく出来ている。流す涙がお芝居ならば、何の苦労もあるまいに、濡れて燕の泣く声はあわれ浮名の女形―売っちゃいけない、買わねばならぬ、仇な建て玉気迷い舟を乗せて流れて何時までか、苦労するのは相場だもの。東海林太郎が哀調こめて唄っていた。

先週土曜と今週月曜の放れた二ツ星。いわゆる投げ捨て星。星一ツが二等兵。二ツで一等兵。金線一本通して伍長に軍曹。赤線一本立てるか、黒線一本垂らすか。大阪市場でも売り大手が積極的に手仕舞いを見せている。

おりから明日は京都の如意岳での大文字の送り火が焚かれる。
 
当方は大の字ではなく小豆の小の字の送り火でもするか。大文字のがっくりきえや東山―。

●編集部注

〝いまだかつて、下げっぱなしという相場はない。この小豆相場も、いずれは底入れして反騰する〟と言う文言は、全ての相場に共通する。まさにその通りで下がれば上がる。

しかし忘れるべからず。「コツン」という音は、相場が底入れした時にだけ鳴る音ではない。曲がり屋の心が、完全に打ち砕かれる時にも「コツン」という音は鳴り響く。

【昭和四七年八月十四日小豆一月限大阪八六八〇円・五〇円安/東京八六九〇円・九〇円安】