昭和の風林史(昭和四七年六月七日掲載分)

暴落の気配が 値ごろ考えるな

買い方は天をあおいて霜よ降れと祈るけれど霜は降らず値は下がる。相場は発芽順調で暴落する。

「のび出でて鮎の竿やな岩隠れ 夢筆」

晩霜がなければ―という仮定の上での相場を考えなければならなくなった。

三十四万四千俵という消費地の(五月末)輸入小豆の在庫。ほかに一万一千俵の国産小豆がある。

しかも、中国からの契約した入船が今後もあるわけだ。

取り組み面は、まさしく目をおおいたくなるほどの高値買いつき。

十五日の札幌祭、いわゆる〝別れ霜〟。どうやら発芽後の降霜に関しては不安が解消されそうだ。

こうなると、人気は一度に豊作気分に片寄る。その時、相場は急落する。女が階段を登る時とか、女は一度勝負するという映画の題名があったが、相場が青田をほめる時、相場は一度暴落する。

いま、小豆相場を買っている人は思惑である。すなわち霜が降っ〝たら〟のタラを買っているわけだ。鱈(たら)の投機である。ところが鱈とエイとは隣り合わせで、降らなかったら、〝えい〟と投げざるを得ない。

文語の助動詞活用は未然、連用、終止、い然、命令。降る、降れ、降る、降るる、降れよ。いやよ、降らない、困った、投げる、投げれ、投げよ、投げらる。

これが動詞の四段活用になると、安か、安き、安く、安け、安けよ―となって、相場のほうも四段下げになる。玉のほうは、そうなると、か行の上一段活用で、き、き、きる、きる、きれ、きれよ。実につれない。

などと遊んでいてはいけない。

しかし、つう、つう、れろ、れろ、つー、れーろ、はお酒に酔った時に歌う、酪酊れろれろ活用であるが発芽順調、成育好調では買っている人達、完全な思惑はずれで、名金言、しまったは投げよを活用せざるを得ん。

そして半紙に墨黒々と〝値ごろにとらわれることなかれ〟と書いて張っておく。先代岡安商事の岡本安治郎氏の自宅の仏間にはいろいろなことが書かれて襖(ふすま)に張ってあった。

人々はいま、戻したら売ってやろうとしている。そのことをちゃんと相場は知っているから、戻したりはしない。先限の一万一千円割れ。そして八、九、十月限の五月25日の安値割れ。それは青田をほめて崩れる時である。今年は面白くない年である。

●編集部注
人の心は浅ましい。相場では人間性が出る。

これぞ売りたい強気、買いたい弱気の典型例。

相場は素直が一番だ。と、自分に言い聞かせるように書いている。中々に動けないものなのだ。

【昭和四七年六月六日小豆十一月限大阪一万一六二〇円・一三〇円安/東京一万一五八〇円・一九〇円安】