昭和の風林史(昭和四八年一月十八日掲載分)

ピラニア健在 結局は食われる

インフレ太りの小豆の買い主力は結果的にアマゾン河のピラニアに食われてしまうであろう。

「寒肥や花の少き枇杷の木に 素十」

小豆先限は遂に一万二千円を付けた。

市場は警戒気味だが、買い方主力の作戦と、その資金力、そして大衆の雷同買いが今まで通りのパターンが続く限り相場を弱気するのは危険だ―という見方をしている人が多い。

買い主力の資金動員力は五十億円とも百億円とも言われる。もちろん臆測である。従来、相場は資金力肝要なれど資金のみにて勝利せずと言われてきた。

しかし今回の買い主力はインフレという背景のもとに遠い先の限月を集中買いして現物に近寄らず、あくまで〝場勘戦争〟で大軍を押し進めていく。それはあたかも天の理、地の利、時の運の三条件が味方しているかのようである。

かつて、このような状況を見たことがない。敢然と大豊作の小豆を買い進む。それは奇略であり無謀である。だがこれまで、勝負の神はことごとく、すべて彼にほほえんだ。

聞くところ、彼は十億円前後の税金納付は必然の事態で、税金に十億円取られるぐらいなら相場で十億円ほどの損をしたほうが後々自分のためにもなる―ともらしていると聞く。相場界に名を残す。あるいは人々を儲けさせ、人気を高める。それは充分にメリットのある計算だ。

生糸戦線に花と散った栗田某が、多数取引員に尨大な赤字を残しながら彼を悪く言う人のいないのは、彼の人柄と人徳にもよろうが、しょせんは彼が取引員及び関係者に莫大な手数料を落とし、市場に活気をもたらし、あるいは儲けさせてきたからにほかならない。

小豆の現在の買い主力に対しての評判は、きわめてよろしい。と言う事はかなりの恩恵をこうむっている人が多い証拠である。

アマゾンのピラニアが群れなすようなところで買い主力は健全である。しかし筆者は思う。インフレを先食いしたピラニアたちはとどまるところを知らぬその貪欲な食欲で次はインフレで太りきった買い主力そのものに群をなして襲いかかる時がくるであろう―と。

生糸の栗田某も、いうなれば相場というアマゾン河のピラニアに襲われたようなものである。小豆相場のピラニアの動きが少し変わってきた。

●編集部注
 「雷同買い」とはまぁ、バッサリ書いたものだ。
 「素人がな~んも知らんと提灯つけよって」という悪態が四文字から浮かび上がるように見えた。
 そんな文言懐温い買い方は平気の平左だろうが。

【昭和四八年一月十八日小豆六月限大阪一万一四一〇円・二四〇円安/東京一万一四五〇円・二五〇円安】