昭和の風林史(昭和四八年七月二十日掲載分)

すでに政治だ 行政の価格介入

商品業界は行政当局の強い価格介入によってかつてない危機に直面している。相場でなく政治だ。

「水飯に味噌を落して曇りけり 虚子」

穀物市場も最終的場面に直面した。

農林省は、自主的規制にもかかわらず価格が高騰する場合、売買取り引きの一時的停止もあり得る―と強い態度に出た。

小豆は、二万円を付けること、まかりならぬ、というのだ。多分に政治的な背景によるものである。

聞くところ、ある穀取の理事会で、某公益理事が、相場は、なんら異常でない。将来不測の事態が発生するというようなことは考えられない。もしそのような事があれば私は坊主頭になって腹を切る―と、馬鹿な発言をしたらしい。お粗末な話である。

各穀取理事長は農林省に呼ばれた。二万円を付けたら立ち会い停止だという厳しい主務省の態度に、東穀の鈴木理事長は行政が価格問題に介入しすぎる―と、東穀の毅(き)然とした態度でのぞむ。

すでに問題は政治の段階である。そして各穀取間、各業者間は感情の問題になっている。

この時(19日)赤坂プリンスホテルで野党の中村重光、板川正吾、佐野進、加藤清二、加藤清政、岡田哲児、上坂昇、大柴滋夫の各代議士先生と全商連、全協連正副会長ほか山本(博)、多々良、武田、小山、真鍋、安田、飯田、小島、向、児玉の全協連各役員が出席、目下の商品取引業界について懇談した。

商品業界の置かれている立場は穀物のみならず砂糖、ゴムの市場も巨大な投機資金の介入で緊迫している。先に毛糸、生糸、綿糸、人絹等の市場が通産省の政治的判断による価格介入があり、それら市場は機能を発揮出来なくなった。

いま穀物市場に行政が不当に介入しようとしている。そしてこれが砂糖市場にも、ゴム市場にも及ぶであろう。

商品業界は世界的なインフレ、巨大な投機資金の流入、大衆パワー、田中政府の物価抑制と言う下から押し上げる力と上から押さえつけようとする政治の板ばさみにあって、かつてない機器に直面している。

商品先物市場の将来はどうなるのであろうか。行政が、どこまで介入してくるのであろうか。取引所に自治はあり得ないのであろうか。三年前の危機感とは違うもっと大きな危機に業界は、いま直面している。

●編集部注
 相場も世相も不穏也。

 この時期、ある韓国の政治家が自民党の招きで来日。しかし翌月八日に何者かに拉致される。

 金大中事件である。

【昭和四八年七月十九日小豆十二月限大阪一万八四五〇円・七〇〇円安/東京一万八七一〇円・七〇〇円安】