昭和の風林史(昭和四八年三月一日掲載分)

政治絡み難解 日柄面では疲労

政治、需給、買い方主力、そしてエスカレートしつつある感情問題など小豆は難しい動き。

「のけぞりに雛の抱ゆる鼓かな 花囚」

小豆相場は政治が介入していることから動きが普通でない。しかも一、二月高値を追い続けてきたあげく日柄をかなり経過しているため、深く押してもよい時分である。

今の情勢を分析すれば次のようになる。

(強気有利)
①世界的な穀物不足②インフレによる換物人気③巨大な買い思惑④夏の天候不安⑤小豆減反予想⑥需要期控え―などである。

(弱気有利)
①田中内閣の投機抑制策②輸入小豆圧迫③建て玉数の規制④高値取り組み。

安ければ強気しなければならない―というのが目下の市場人気ではなかろうか。

もとより安値を叩いて売り玉がひっかかっている人たちである。

全般に商品市場は腹だたしさに満ちている。

田中総理大臣閣下に小豆等の規制を陳情したズルいやり方に対して買い方は激怒している。

また、業界内部の〝からくり〟を持ち出したそのキタナイやり方に対し除名せよという声まで出ているほどだ。

一方、巨大な小豆の買い方は、買い占めなどではない―と大なる不満をぶちあけている。業界が迷惑するというのであれば、責任ある立場の人が、はっきり言ってこい。それなら降りてもよい。

降りたらどうなるのか。市場は生糸仕手戦の時のように混乱しよう。

売り方は売り方で豊作小豆をインフレだとは申せ高値に持っていかれ、しかも規制まで誘発してしまった大切な市場を、ある意味で私物化され商売もやりにくくなったという立腹。

強弱には常に感情がつきまとう。それが大きな思惑ともなれば、もとより必死である。感情はエスカレートして高ぶる。

ところが取引所当局が全く無策無能であるため、売り方も買い方も感情が鋭角化する。

業界で蝮の道三といわれる本田忠氏は『力は正義なり』という言葉を信条としている。相場師として枯れた心境にある佐伯義明氏は『なにがなんでも勝たねばならぬ』を―信条としている。大垣の大石吉六氏は『攻めは、あくまで厳しさを本領とし、ゆるめてはならぬ』と言う。

さて、きょう新ポ、どうなることやら。

●編集部注
本日の風林火山は冷静なロジックに戻っている。

ここまでの喧騒を平成から見ていて、司馬遼太郎氏が昭和四一年七月に発表した「俄」という小説の、堂島米会所の一場面を筆者は思い出す。

【昭和四八年二月二八日小豆七月限大阪一万四四五〇円・七〇〇円高/東京一万四四二〇円・七〇〇円高】