昭和の風林史(昭和四八年九月五日掲載分)

安値叩き警戒 強気まだ早いか

安いという事は底値に近づく事である。高い時のように積極的な弱気は出来ない。利食い専念。

「虫の音や夜更けてしづむ石の中 園女」

小豆新穀の一万三千円前後は長い目で見るなら弱気するよりも強気したほうが気持ちの上でも楽であろう。

問題は、どこで底が入るかだ。昔から彼岸天井、彼岸底という言葉がある。

高値一万九千円からおよそ六千円を下げれば、三分の一に当たる。よもや一万九千円の半値になるとは諸物価高の現在、考えにくい。

相場が安くなるほど、安心して売る時代は遠のいていく。反対に安値安値を買い下がっていくほうが有利になる。

それには下値の目途を、まず測定しなければならない。現在の作況と収穫予想高から農家の手取りを逆算して一万二千円と見るか一万二千五百円と置くか。

ケイ線観から一万三千円割れは買い場と見ることも、あながち的はずれとは言えない。

日柄の面では、七月11日が天井であったから三カ月またがり60日なら十月十日前後に大底を打つだろうと見ることも出来る。

人気面は、かなり弱気が浸透している。

ここで強気することは、ちょっと難しいもしれない。金融引き締めの効果も十月ごろから表面化するであろうし、投機人気も遠のけば、相場は在庫圧迫で低迷を続けるだろう。

しかし、半面、新穀出盛り期に値段が安ければ生産者は、この春の高値を見ているだけに売ってこないだろう。

世界的な農作物の不足や異常天候の続く昨今、長期的に相場を考えれば来年の作付け面積や天候にまで思いは走るかも知れぬ。一万三千円どころは、あるいは好買い場になるかもしれぬ。筆者は、あわてることはないと思う。

天井三日底百日―というように、下げ落ちたあと、仮に底を打ったとしても戻したり押したりで駄目底をつくる。

まれには鋭角的な底値脱出の急反騰と言う底打ちもあるが、そういう相場は出直しだとしても大きなスケールにならないものだ。

今、思うのは九月中下旬あたりの安値、一万三千円前後。それから強気になっても遅くはないだろう。安いところは売り玉の利食いを心がければよいと思う。あわてる相場ではないのだ。

●編集部註
相場には「上り坂」「下り坂」「魔坂」があるというのは有名な話。

この当時の小豆相場は「下り坂」が急になって「上り坂」に入る少し前。ちょうど「魔坂」に入ろうとしている頃である。

【昭和四八年九月四日小豆二月限大阪一万二七九〇円・七〇〇円安/東京一万二八〇〇円・六九〇円安】