昭和の風林史(昭和四八年二月十六日掲載分)

ダム決壊せば 小豆が氾濫する

小豆は音を立たてて崩れる日が必ずくる。熱くならず売りっぱなしでダムが決壊するのを待つ。

「水影の映り去りたる水温む 虚子」

小豆の売り方は荷物がドサってくる四、五、六月限が前に回る時分が勝負どころでこの相場は長期戦だ―と、冷静に見ている。

限月間のサヤが開いているため、期近を買って先限を売るという、サヤ取りの商いも活発である。

買い方が、あくまでも長期限月の買い方針を貫けば現物はダムに水をためるようにダムのコンクリートを厚く、そして高くしなければならない。

三月に入れば秋の交易会で契約した小豆がウズを巻いて入荷しようし、それが需要期にはいるとはいえ充分ためられたダムの上に、さらに俵を乗せることになる。

ともかくここは熱くならず一万三千円以上はゆっくりと売り上がっていくことである。もちろん相場は日柄の経過も重なって〝モロイ〟ものになっている。

さしものインフレ換物人気も大豆相場に見られたように〔値上がり期待で思惑されたものは、値段が出れば必ず品物が市場に出てくる〕―のである。

小豆も同じで、品物が無くて高いのではない。投機家の思惑で高いのだ。

投機家は作付け面積減反と夏の天候に勝負を賭けている。そして大衆のインフレムードによる買い人気。

しかし諸般の経済情勢を見ていると、なんとしても貿易の全面的な自由化は避けられそうにない。世界的な豆類の高騰とは申せ、小豆は大豆などと同一視出来ない。

まして大衆パワーの時代だ。一部投機家の思惑で価格が高騰すれば、世論の攻撃を浴びよう。

小豆は豊作だったのではないか。それなのになぜこのように高いのだ―。

フラフラ腰の田中内閣は農林省の官僚に〝取引所が悪い〟と言いかねない。

そのようなことも考えて相場を判断しなければならないと思う。

買い方には、買い方の思惑も考え方もある。しかし、それが時運に乗っている時と、逆行する時があって、資力のみで大きな戦いは出来ない。即ち天の理にかなっているかどうかである。今は無理をするところではない。

方針は長期限月を売っておく。音をたてて崩れる日がこよう。

●編集部注
 平成からこの昭和の文章を読むと、限月という仕組みがしっかり機能している事が伺える。

 順鞘、逆鞘、天狗鞘、おかめ鞘…。サヤブロック表というものもあった。

 いまの穀物市場で鞘取りは儲かるのだろうか。

【昭和四八年二月十五日小豆七月限大阪一万三三四〇円・一〇円高/東京一万三二〇〇円・一〇円高】