昭和の風林史(昭和四八年五月十日掲載分)

天候相場序曲 人気一本の動き

天候を眺めての人気一本という動きになってくる。何が怖いかといって人気ほど怖いものはない。

「藤こぼれ遠くに金魚売の声 清原」

昔から北浜では彼岸天井、葉桜直り、金魚売りに売りなしと言う。彼岸時分に天井した相場も、桜の花が散って葉桜時分になると相場が直り、初夏の風物、金魚売りの来るころの相場は少々閑でも売ってはならないとされている。

北海道の天気と気温が取引員の店頭に掲示される。本格的な天候相場は発芽時の六月十日過ぎからで例年六月五日の宇治のあがた祭り、名古屋の熱田祭りが終わってからである。

しかし、相場の人気とは面白いもので、まだ種も蒔かぬ前から霜でも降ると相場は急騰する。

もとより被害は受けないが、播種が遅れたり異常気象を確認したりで、結構刺激材料になるわけだ。

気象庁の予報では五月末に冷え込みがあって、その時は晩霜の可能性もある―とされている。

一方、市場での関心事は作付け面積の増減である。相場が高水準だから小豆は減反になるまいという見方が支配している。

例年そうだが、作付け面積は、なかなか正確な数字が掴めない。なにしろ畠は広いし、生産者は税金面を配慮する。しかも相場を強気している人は身びいきで少し減っても大幅減反と思い込むし、弱気はその逆になる。

そうこうする間にも日数は、ずんずん過ぎていく。相場は押したり突いたり、閑になったり人々を気迷いのウズに巻き込んだり。

さて、相場であるが、もとより大勢大相場、押し目買い。これからはその日その日のお天気次第であるし、その背景には異常気象という油断の出来ぬ現実がある。

雨が続けば農作業が遅れるし、低温が現れれば、市場の心理面にすぐひびいてくる。在庫の数字も作付け面積のふえた事も、そうなると問題にしない。

相場とは面白いもので人気はこれから特に片寄りやすくなる。今の今まで閑で閑でしようがなくても次の節わらわらと買われ遂にはワッときてストップ高などという事がある。

要は今の置かれている水準である。三千円台なら無条件安心買いの圏内である。五千円、六千円が、それほど馬鹿高い相場とは思えない風潮が怖いのだ。

●編集部注
 閑で閑でしょうがない時に、小人はいらん事を考えて動いてしまうが、大概ロクな事にならぬ。

 動かざる事山の如しというが、大人でなければ存外怖くて出来ぬ所業だ。

【昭和四八年五月九日小豆十月限大阪一万二八〇〇円・一四〇円安/東京一万二七五〇円・一四〇円安】