昭和四八年八月十日掲載分
依然暴落含み 規制緩和は売り
小豆相場は規制が緩和されると、どかどか泥靴で踏み込むような大下げが始まるだろう。
「朝顔は水輪のごとく次ぎつぎに 水巴」
昼さがり、交通渋滞の車から流れてくる甲子園の実況放送は、暑さ以外のなにものでもない。大阪は、もう随分雨が降らない。庭の木々も街路樹も葉は萎(しお)れ白っぽく埃りしている。
隣り組の回覧板は節水を呼びかけ、打ち水をしないようにという。
炎帝の威の衰(おとろえ)に水を打つ(虚子)。
すでに暦の上では初秋であるが暑さことのほか厳しい今時分は、早々と帰宅して庭に、たっぷり水を撒き、風呂上りの麦酒をたのしむのがなによりの、やすらぎで、目には夕顔、糸瓜棚。お膳の上のギヤマンの器には蛸、海老、水仙寺海苔、二杯酢。煮物は巻鱧の葛叩き、浜ちしゃ、岩茸。茄子の鴨焼きなどあれば菱の実、針生姜の吸物ぐらいで麦酒のあとは辛口のお酒に切りかえて結構この上ない。
元気な人たちは屋上ビヤホールで、わいわい飲んで、熱風の吹きつけるバー横丁の路地から路地を梯子する。ルーム・クーラーから吐き出す、どろんとした熱風は御酩酊した酔客に遠慮もなく吹きかけて、深夜のタクシーを拾うのにまた汗みずく。馬鹿だな、この暑い時にと二日酔いで頭の痛い次の日はざん愧に耐えず、あたりを見渡せば暑中休暇でデスクに人影もまばら。
さて、相場のほうはと眺むれば、なんとも頭が重すぎて、一万七千円以上は絶好の売り場。
人々は、規制がゆるめば上値もあろうと期待するが、規制がゆるめば、四百四病一度にどっと出てこの小豆相場はそれからくずれよう。
証拠金が低くなれば新穀のヘッジが増加する。
買い方も買いやすくなろうが新規売りもそれだけ嵩むわけである。
聞けばどこのお店もお客さんは売りが多く、売っているから下がらないような有様だが、いずれ今までの無理した疲れがS安、S安でほどけにかかる。
小豆相場は八千円以上の高値取り組みが、さらんぱらんと散らかるように投げてこぬ以上、戻すほど後が悪く、戻らねば戻らぬで悪く、先限一万五千五百円。へたすると一万三千円割れという、なだれ現象を目(ま)のあたりに目撃、体験することになるだろう。
●編集部注
相場も記事も夏枯れす。『味覚極楽』という大正時代の新聞連載をまとめた本を読むと、その連載も元々、夏枯れの紙面を埋める記事であったとか。
夏の高校野球も平成二 十七年で百年目。今回の選手宣誓は第一回大会優勝校の流れを汲む京都代表の主将がつとめる。
それも何だか凄い話である。
【昭和四八年八月九日小豆一月限大阪一万五八五〇円・五〇〇円安/東京一万五九六〇円・七〇〇円安】