昭和の風林史(昭和四八年六月七日掲載分)

買いづらいが やっぱり上値が

辛抱しきれず煎れたところが天井となるかもしれない。しかし、まだ上値が先に出るだろう。

「窓開く鉄線の花咲きわたり 青邨」

鉄線という名は、いかにも不粋な名である。針金や鉄条網を連想させる。しかし初夏のころ、白い六つの萼片が、濃い紫色の蕊をかこんで咲くこの花は名にも似ず美しい。名称の由来はその茎が細長く針金状であるからだという。

この茎は細い巻鬚で他の木を巻きながら上へ上へとのぼっていく。ちょうど今の小豆相場のようだ。

五月末在庫発表は五十八万九千俵あまり。もちろん史上最高を記録した。

一時は六万ヘクタール前後、約一〇%前後減反と予想されていた北海道の小豆作付け面積は相場の上昇から案外に減少しないのではないか、むしろ中間地帯では去年より増反になるのではないかという声まで出ている。

産地の天候もここ二、三日好天に恵まれている。

材料を並べてみると、買う筋は全くない。だから値ごろを見ては買えないし、売りたくなる。

いまでさえ四大消費地に六十万俵近い在庫がある。産地にもまだかなり残っているはず。今年度上期の輸入ワクの発券繰り上げもありうる。豊作とまではいかなくても、平年作だったらあり余って仕方がないだろう。これが常識である。

相場は常識であるという人もある。また相場は理外の理で動くという人もある。どちらも正しいし、どちらも間違っているともいえるだろう。

桑名筋は品物が余っているからこの小豆を買うのだといって昨年末から強烈に買った。理外の理の勝利とも見えるが、毛糸のような窮屈なものを避けて小豆に乗りかえたのは極めて常識的であったともいえるだろう。

さて播種が終わった小豆だが、平均気温が十一度で発芽まで十八~二十二日。十二度で十四~八日要するという。従って発芽がほぼ揃うのは今年は十日すぎということになるだろう。このあたりの霜が気になるところである。

現在バイカル湖の周辺に地上五千メートルで氷点下三十度という強い寒気団がある。これが接近するのが十日すぎになる。

たとい霜がなくても低温だというだけでも、今の地合いから見て買われる可能性が強い。

先に高値を出しきらねば下値は望めぬ小豆相場のように見えてきた。

●編集部註
 当欄のために当時の文化や世相を調べてみるといろいろ判って面白い。

 仁義なき戦い三作、スティング、エクソシスト、アメリカングラフティ、燃えよドラゴン…。全てこの年に公開されている。

【昭和四八年六月六日小豆一万七五六〇円・四〇円高/東京一万七六六〇円・一五〇円高】