昭和の風林史(昭和四八年四月九日掲載分)

悪夢の三日間 整理完了反騰へ

だいたい整理が終わった。値幅五千円。失神しかけるような凄いものだったが、今週底値を確認す。

「行列をぬけ出る稚児や花祭 無声女」

一万円を割るなどと、よもや思っていなかった。相場はこれだから怖いし、また面白い。それにしても、今回の下げは失神せんばかりである。いかに買い仕手に大きな〝ちょうちん〟がついていたかが判る。ちぎっては投げ、投げてはちぎって、また投げる。

全商品、まさしく悪夢のような三日間である。すべてはきつい反動であった。

おりからミシシッピ川の氾濫が伝えられる。大相場師・近藤紡=近藤信男氏が今日あるは、ミシシッピ川の氾濫という風雲に乗じて綿花、綿糸、綿布の大投機を敢行したことによるものだ。今回の氾濫はミズーリ、イリノイ、ルイジアナ、ケンタッキー、テネシー、アーカンソー等七ツの州にまたがるもので大豆、とうもろこし、小麦、綿花等の被害は予想を上回り、これがいずれ世界の穀物相場に影響をもたらすだろう。

天災は先物市場の買い方にとって、好運の女神であり、風神である。

先物市場の存在価値は予測出来ない天候、天災などから生産者、流通業者が身を守るためのものである。

〝ミシシッピの賭博師〟などという映画があるのも、この地方はたえず天災が多く、自然、風土的にも投機師や賭博師が雲集しやすかったのかもしれない。

さて、下げも下げたり当限一代で五千円幅。八月限一代でも五千円替え。まいった、まいった本当にまいった。
おりから〝謹啓投機家殿追証は怖くないあなたの追証引き受けます〟というにくい広告(本紙)が出ている。ほんまかいな。筆者は電話してみた。どうぞ来て下さいという。五、七百万円から四、五千万円。24時間以内に現金を揃える。世の中いろいろ商売があるものだと感心する。

どうだろう。小豆相場は投げるところと目(もく)された目立つ玉は投げ終わったようだ。もちろんこの間、須々庄のお客のK氏のように一億円を軽く利食ったという人もある。高値の因果玉を頑張っている人もある。映画〝真昼の暗黒〟のラストシーンは『最高裁がある』と絶叫するが、失神しかけの小豆の買い方は『天候相場がある』―と望みをかける。

●編集部注
前にも書いたが、この当時の慶応大工学部の年間授業料が二十万円だ。 

少し前の小豆相場一枚の証拠金がこの額であったがこの変動だ。追証だけでなく、臨時増証拠金等もあったのではないか。

【昭和四八年四月七日小豆九月限大阪一万一三一〇円・二七〇円安/東京一万一四一〇円・一八〇円安】