買えば買うほど 相場は重くなる
買うだけでは相場は騰がらない。材料だけでも騰げられない。今必要なのは叩き込みショックだ。
「浜木綿に夜の浪白き祭笛 麦南」
産地の空模様は、きわめて悲観すべき現象が続き作柄が憂慮されている。すでにこの十日間、低温と日照不足であきらかな冷夏型。小豆の作柄は万人の見るところ甚だ悪い。のみならず測候所の予報では八月、九月もこの異常低温が続き秋冷も早い。
しかし相場は反応を示さない。なぜであるか、その理由は充分に承知している。
穀物市場に新しい投機資金が流入しないからである。
現在市場に介入している投機資金は、売り方も、買い方もガップリ取り組んだままだ。
そして、大衆が新規に売ってこない。誰だって産地の天候不順を眺め、そして強力買い方山梨の頑張りを見ていては、うかつな弱気は出来ない。
さりとて、買うには相場に、もう一ツ精気がないのと、水準が高い。また他商品の証拠金と比較すれば小豆を敬遠せざるを得なかろう。
中共小豆の輸入契約や、商社筋の外地栽培小豆の入荷。あるいは肥後は熊本小豆の豊作。そして消費面の不振など、需給関係は今ひとつ冴えない。
産地天候の不順も相場には、かなり織り込み済みの段階で、なお相場が高騰すれば規制は、いよいよ強化されることは明白。
されば、誰がこの危険がいっぱいの、率の悪い相場に投機してこよう。ゴムに毛糸に綿糸、乾繭。はたまた人絹―と魅力ある投機対象は周囲に多くある。
今の相場が、こうなっている最大の理由は大衆投機家不在である。
一部仕手がかった巧者筋といえどひとりで相撲はとれない。
なおこの上を買い上げて煎(い)れを取りに行く積極作戦に出るにしても腹一杯買って、防戦あいつとめたあげくでは、兵力不足を身に感じ、怪物近藤紡の存在も買い方にすればきわめて無気味といわざるを得ない。
相場は、そういう理由で(内部要因で)異常低温にもかかわらず迫力に欠けるのだ。
相場は買うだけでは騰がらない。そして相場は材料だけで動くものでもない。
前三本七、八、九月限は手の出しようがない。新穀二本が〝手あか〟によごれた相場である。相場は正直である。なにもかもお見通しだ。一度大きく崩してショックを与えなければ一万七千円は付けられない。
●編集部注
先週当欄ではこの四十余年前のこの時期の相場を「この先やってくる大嵐前の、不気味な静寂の中にある」と形容した。東京市場は、ここから一カ月余レンジ相場に。
この時の心理の移ろいにご注目戴きたい。
【昭和四六年七月二三日小豆十二月限大阪三七〇円安/東京二四〇円安】