急反騰がある だが売りでよい
怪獣ドラゴンかジラゴンみたいな近藤紡に立ちむかうみたいな図である。相場は戻り売り。
「川止や暗き燈に寄る旅役者 凡水」
名古屋米常商事主催の先週土曜日の講演会は、会場満員の盛況で、やはりそれだけ現在の小豆相場の動向に関心の寄っていることが判然とした。講師として静岡の若き相場師・栗田嘉記氏が相場で儲ける方法を説き、また西筋では老巧な、熟練の境にあるといわれる相場師・鳴海屋の鳴海力太郎氏が、うんちくをかたむけ、安田祥雲斉先生が、これからの天候と、天候変化の見方を汗いっぱいで語った。
筆者は新聞に書いてある強弱方針に業界の話題をそえて、それで終わってから〝大甚〟に米常の岩城氏と鳴海屋の力太郎社長とで一盞やって帰ってきた。過去五、七年名古屋に行って相場が安かったのは筆者にとって初めてである。しかしこうあるべき(崩れる)相場と見て行っているから〝大甚〟のお酒はことのほかおいしかった。
名古屋でも近藤紡の十月限売りが話題の中心で岡地の福富常務は、ことのほか近藤社長に気に入られいそがしいようで彼は大きなボストンバッグに旧海軍の戦闘帽や戦闘服を詰めてこれから海軍兵学校の年一回の集会にはせ参じ、お酒を飲んで大の男が黒線二本の戦闘帽をかぶって〝玲瓏そびゆる東海の芙蓉の嶺をあおぎては…〟とか、〝燦たり菊の御紋章、厳たり五条の御聖訓〟―などタタミを踏みならしドラ声でやろうとするのだから、玉のほうもいそがしいし、気は江田島同期に飛び大変である。
近藤紡は十月限を一万六千百五十円で千三百枚売った。そして一万六千七百円があれば、もう千枚売る予定らしい。
岡地の福ちゃんは近ちゃんの売りを当初甘く見ていたようだが、ゆっくり考えてみたらリツ然としてきた。これはえらいコトですぞ。テレビのマンガの怪獣ドラゴンに子供が立ち向かうようなものだ―と。近藤氏は別に深く考えたわけではない。小豆は老境に入った相場で、売っておけば銭になると見ただけである。
近藤紡お気に入りの福ちゃんにして、当初は変なところを売る―と思わせた。まして業界では山梨のものだ…とハナから決めてしまうのも無理はない。
大石商事では大石吉六会長が板垣氏の買い玉のことで大阪の大石敏郎社長と『投げてもらおうじゃないか』と相談していた。
さてこの相場どう動く。
当分は戻り売りでよい。
●編集部注
業界内輪ネタで盛り上がる宴席。相場談義に花が咲く。今は懐かしい、華やかなりし、あの時代、あの名前が出てくるが、当時は時の人。
小豆相場が盛り上がれば、また業界も明るくなるのだが、時代が変わり、時間は無常にも戻らない。
いずれ、忘却の彼方へと消えていく定めか。
風林の相場観、目先売りでよいとのことだが、前日、コツンと来た相場。この日は陽の丸坊主線、売り方これから真綿で首を絞められる展開となるが……。
【昭和四六年七月十二日小豆十二月限大阪二四〇円高/東京二九〇円高】