昭和の風林史(昭和四六年九月十四日掲載分)

天井圏に接近 陣雲暗し五丈原

ゆさぶりがきつくなるということは、天井圏に接近しだした証拠と見ればよい。すでに強弱なし。

「みちのくの雨そそぎゐる桔梗かな 秋花子」

取り組みは、どんどん細っている。多くの人々は、この小豆相場にへきえきしている。近寄らないのも一ツの賢明策であろう。

産地の作柄は絶望状態である。26号台風の影響による大雨洪水、そして冷え込み、落葉病などの病虫害。そのうえ降霜と凍結不安が、たえずつきまとっている。

ここで小豆相場はどうなるのであろうか、考えてみよう。

〔市場の維持〕今度立会いを停止すれば、小豆の上場廃止は必至という悲壮感が業界に浸透している。規制の強化は矢つぎ早に打たれようが、どれほどの効果があるだろう。増し証と建て玉制限。

〔仕手関係〕十月限売りの近藤紡が踏むまでは買い方も降りるに降りられんが、各取引所は、それぞれ大手買い方取引員に強力な自粛を要望しよう。

〔値段〕いいところにきていることは確かだ。しかし三分作などということになれば二万円相場も永続きするだろう。

〔相場〕急落もあり得る。しかし暴落しても、斬り返しがきつい。二千円下げの二千円騰げということもあり得る。

〔陰謀〕大相場には必ずつきまとうもので、業界実力者らの画策があろう。もちろん自分達の建て玉に関連してである。

〔天井〕いずれは大天井打ちする。それを見つければよい。しかし必ず二番天井を取りにくる。

〔材料〕作柄に関しては売り方に味方するものが、なに一ツない。
〔崩れるとすれば〕煎れ出尽くし、買い方利食いという内部要因である。それに輸入小豆の動向だろう。

〔下値〕かりに大天井打ちして下げても一万六千円以下の相場はない。

〔見方〕どういう規制が打ち出されるか/売り方の出方/産地の冷え込みぐあい/買い大手の利食い―などにより、まったく気の抜けない緊迫の場が続く。

しかし、急落(五~七百円幅)あれば買いで対処するところ。二万円以上の値がつくこともあり得る。

さて、今いえることは飛びつき買いはしないこと。と同時に弱気してもいけない。

大天井打ちを見つけるのも勝負手である。そしてその先のことを考える。

ゆさぶりがきつくなるだろう。天井圏に接近しだした証拠である。

●編集部注

虎は死して皮を留め、人は死して名を残す。

この語通りの人だった。 

晩年は、軽妙洒脱、飄々と、老いてもなお、艶のある筆致を忘れない好々爺の印象しかなかった。

それ故に、冷静に相場を見つめ、丹念にロジックを積み上げた、この美しい数式の如き昔の文章を、今に紹介したい。

【昭和四六年九月十三日小豆二月限大阪七〇〇円高/東京七〇〇円高】