昭和の風林史(昭和四六年八月二日掲載分)

売り方有利!! 先三本揃い踏み

八月二日、新ポ。先三本の揃い踏み。今月は荒れる月回りである。相場は暴落型。

「昼顔の花の中にも砂多き 青畝」

うかつに産地視察にもいけない。航空機事故は不思議に続くもので、あれはきっと犠牲者の霊が呼ぶのかもしれない。

山本博康先生と経済あんど相場誌の藤野洵氏と後場休会だから、どうだい、一盞お昼からだが鮨でもつまみながらやろうじゃないかと一献やっているところへ全日空機事故のニュースが飛び込んだ。

談たまたま博康先生の飛行機嫌いの話の最中で博康先生は所用ありて博多は検察庁へ出頭ではなく、懇願切々の情にほだされ、行きたくない場所だが行かざるを得んと意を決し、万止を得ず飛行機に搭乗する気になっていたおりもおりだけに、先生の顔いろが急にサッと変化した。

僕はやはり汽車にする。嫌だよ、ああ悲しいかな博康先生、遂に空中にて花の如く散ったなどというのは。

これから穀取業界で各地それぞれ希望者をつのり産地視察に出かける。恐らく今度の事故で、行く予定を中止する人もかなり出てこよう。

ところで相場は天候の回復で支えを失っている。強気筋は、こんなに高値で日数を経過するような天井は、あり得ないという信念のもとに、突っ込み買い方針を堅持しているが、見るからに相場は重たかった。

もとより売り方にすれば、仮りに高値があっても売り上がれば水準が異常に高いだけに必ず崩れる。作付け面積もどうやら大幅増反のようだし、開花が遅れようと、八月の天候に恵まれれば七分作以下にはなるまい。

まだ作柄に関しては七・三まではいかず、四分六である。輸入小豆も陸続と尾を引いて入荷するし、実需は高値のため停滞する。

その売り根拠にも確信に満ちたものがあるのだ。

本日、八月は二日新ポ。二日新ポは相場が荒れる。六千円噴き抜けて七千円に挑戦するか、はたまた五千円ラインが維持できず四千円割れに叩き込まれるか。

幸いにして遠い六カ月先のむこうの限月が建つ。

ようやく新穀限月三本揃い踏みとなれば、再び大衆投機家の介入は火を見るよりも明らか。

●編集部注
晩年の藤野洵氏の講演を聴いたことがある。

失礼な言い方だが、見た目は小柄な好々爺。しかし、眼だけはギラギラして、その眼光の鋭さに驚いた。

普段は温和なある相場師の方が、ほんの一瞬、世界が凍りつくような眼差しでボードを睨みつける姿を目撃した事もある。その眼に慄き、あわてて眼をそらした。

これらの印象が強いせいだろうか。長く業界で活躍している方は、一様に眼光が鋭い印象がある。

単なる偏見か。

あの頃のボードは、恐らく手書きか札だろう。

十五~六年前、地方のある商品会社の店頭では、一節一節終わるごとに、まだパチリ、パチリと数字の彫られたマグネット札を壁に貼り付けていた。

その奥では「○○三枚カイ~、△△四枚カイ~」と、独特の節回しで本店の女子社員が各社の注文を読み上げている放送が流れる。

それを電話でお客さんに伝える営業マン。

「ストップ!ハナトリ~」

昭和四六年当時の相場も、こんな光景があったのだろうと想像する。

【昭和四六年七月三一日小豆十二月限大阪二一〇円高/東京一六〇円高】