昭和の風林史(昭和四六年八月十日掲載分)

愁いて語らず 買い陣営に憂色

山鳴りて千騎出ず―という場面だ。買い方陣営に憂色濃し。日は西山に傾むきつつある。

「から松は淋しき木なり赤蜻蛉 碧梧桐」

日曜の八日、岡藤商事の創立20周年記念祝賀のパーティーが、大阪国際ホテルで、全国岡藤社員一堂に参集、にぎやかな内にも整然と行われた。

招待者は報道関係者に絞って内輪だけのお祝であったが、岡藤が、こんなにも若返り、バイタリティーが充満している姿を眺め、プレス関係者は目を見張った。まさに〝よみがえる岡藤〟である。

きょうは名古屋穀取の開所15周年記念のお祝いの宴が〝ナゴヤ・キャッスル〟で行われる。思えばこの市場を中心に幾多のドラマチックな仕手戦が展開され、それが一ツの刺激となって、穀物相場が大衆化され、いん賑をきわめたともいえよう。15周年を迎えるにあたりその功績を高く評価される前理事長・高橋彦二郎氏、そして常に苦労を共にした松山秀雄常務理事の胸中、おそらく感無量と察せられる。

さて週明けの小豆は東京市場で、丸松、山梨、丸梅、マルホと、一連の買い陣営の戦線縮小がその手口に見られた。

前週末には三晶が各節80枚、計二四十枚を売り建てて注目されたが、小豆相場は、ようやくにして大勢に逆らう買い支えがいかに空虚なものであったかを歴然とさせる段階に至った。

相場は半年にわたる日柄の経過と、凶作を織り込んだ高水準によって、あきらかに疲弊している。

誇り高くしかも、良識と信念によって一歩も引かぬ不退転の買い方の根性は、まさに輝かしき相場史の一頁を飾るにふさわしいが、時に天は味方せず、山鳴りて千騎出ず。相場が言うことを聞いてくれなければ陣を後退せざるを得ない。

哀怨 徘回 愁いて語らず。あたかも似たり 初めて楚歌を聴きし時に。濤々たる値下り 月中続き 漢楚の興亡 両つながら丘土当年の遺事久しく空となる。樽前に慷慨して 誰か為に舞う。

相場に言うことなし。

当面の予測値段一万四千二百円。

大勢下降中。戻り相場は判りやすい売り場となるだろう。

これが相場である。

●編集部注
そういえば、商品会社や取引所が、何かといえばパーティーをやっていた印象がある。
バブル崩壊後でさえ、結構催されていたのだ。この頃の華やかさは、それ以上であっただろう。
先日『銀行王・安田善次郎』という本を読み終わった。毀誉褒貶の激しいこの人の実像は、ひたすら自己を律し、虚飾を廃した生涯であった。
虚飾のその先の、無常を見ていたのだろう。

【昭和四六年八月九日小豆一月限大阪二九〇円安/東京二一〇円安】