年賀状は来なくてもよい。出すのがめんどうである。八十過ぎの老人の怠慢である。
街の薬局で売っている風邪薬を求めたが、あまり効かない。
のどの痛みである。
家の中にタバコが無くなったので、灰皿の中から拾い出して、皺(しわ)をのばし、パイプで吸う。
パイプと言っても、東京の三越百貨店で買った、琥珀の上等なものである。
ライターは銀製のダンヒル。
いかにも贅沢なようであるが、タバコはアイシーンの5mg。スリーキャッスルが好きだった。
家の居間に下げてある全裸の美女のカレンダーも寒うござると申す。
それにしても寒いのには参ります。朝起きたら、雪が積もっていた。
寝床の電気火燵(こたつ)の目盛りを上げても利きません。
軒下の雀も鳴いてくれない。近頃は山鳩も庭に来てくれない。
震撼と寒さに震えている。寒い時には、温かいものを食べよというが、冷蔵庫の中にはプリンが二ツほどあるだけ。
二級の免許を持つヘルパーさんが『風呂に入れ入れ』とやかましい。
「貴女と一緒なら入る」と言ったらそれから言わなくなった。いやらしい老人と思ったに違いない。
『あら、いいわよ。背中をお流ししましょう』と言ってくれたら、一級の免許にしてあげよう。
老人というものは、なにかと無駄口を叩く。
ヒロセ通商の細合社長から、ポインセチアをいただいた。
あれこれ食べるものも沢山いただいた。
年賀状は出さない。出さなければ、年々来るものも減る。それでいいのだと思う。
昔は、せっせとよく書いたものである。
八十歳を過ぎたらもういいか。