昭和の風林史(昭和四六年八月二十八日掲載分)

基本姿勢不変 再度押し目買い

押したところは買われる。たえず買い玉を持っておらなければならない相場である。強気不変。

「乗換の駅しづかなり秋の蝉 松太郎」

山大商事の杉山元帥は見事に軍を退いてしまった。鮮やかな采配である。

『弱気になったわけではないが、新穀の一万七千円近いところは、凶作相場といえる。当初の目標値に達したので、お客さんに利食いをすすめた。また、売り方の踏みで市場が緊迫しているため市場維持のためにも買い玉を降りた。聞けばいよいよ作柄は憂慮すべき事態にあるようで、われわれこの業界にあるものとしては理性と良識によって今後とも対処しなければならない。なお、しばらくは成り行きを静観するつもりだ』。

ここ数日来、さしもの売り方も、かなり踏み込んできた。東京市場26日の大引け先三本は、六千四百九十円、三本揃って鬼哭愁々売り方四九四九の声も悲しい。

さて問題はこれからの相場。

元帥は軍を退いてしまった。残る山梨軍団も次の総踏み場面に向かって堂々の陣を一気に退いてしまうかもしれない。四千枚にのぼる大量の軍は、踏み上げ熱狂の場面でなければ抜けるわけにはいかない。

相場は九月上中旬の早霜を待つ格好になるだろう。寒気団の襲来は、およそ充分に予測できるところで低温、凍結ともなれば、もとよりストップ高である。

今度の高値更新の相場にしても、元帥の利食いがなければ当然ストップ高である。

そこに、遅ればせの高値に飛びついた筋にとってはなんとなく物足りなさを感じたことであろうが、市場維持のためには当然の行為である。

見れば、大衆筋もやや安心買い傾向である。確かに相場は上のものであるが、一巡踏みも出たことだし、先限は開所来の新高値でもあるため、押し目を構成して、次の材料待ちという段階のように思われる。

もちろん今の相場の寿命は長い。第一に場が割れるような熱狂がない。その限りでは煎(い)れ出尽くしにはならないし、押してくれば押したでまた売ってくることであろう。そして作柄が決定的に悪いことは万人承知であるし、安ければ手空きになった買い方が再び玉を仕込みにかかることは目に見えている。

深くは押さない相場であるし、基本的には降霜、凍結を予測してたえず買い玉を持っていなければならない相場である。

●編集部注

下げ要素は騰げが握り、騰げ要素は下げが握る。

この時までは、売買双方、それぞれ相手方を慮った姿勢で、相場に臨んでいる様子が伺える。

一国の産業を舞台にした大博打の中で、総大将のコメントは「則天去私」の趣。極めて冷静である。

ただ大相場では、この冷静さが失われていく。

【昭和四六年八月二七日小豆一月限大阪二七〇円安/東京三〇〇円安】